Back to Index|Back to 国際関係研究お役立ち|Visit my guestbook

NATO・ロシア関係の構築

対立から危機管理レジームへ?94-99年を中心に

(英文題目)The Evolution of NATO-Russia relationship in ヤ94-ユ99
base continue crescendo

法学政治学論究第45号(2000年夏季)掲載

(→引用書式)小林正英、「NATO・ロシア関係の構築、対立から危機管理レジームへ?ユ94-ユ99年を中心に」、『法学政治学論究』、第45号、1-36頁。

要旨
「Keep the Russian Out, the American In, the Germans Down」 というフレーズは、冷戦期の北大西洋条約機構(NATO)の多義的な政治目的を示唆する言葉として知られている。しかし、冷戦後のNATO・ロシア関係は「Keep Out」にとどまらない。

近年のNATO拡大を巡るNATO・ロシア間の激しい応酬は記憶に新しい。しかし、その一方で、NATOとロシアは常設の協議メカニズムを設立し、ボスニアなどでの実務協力も継続している。いったい、このパラドキシカルな状況はどう理解したらいいのか?冷戦後、NATOは、当初、旧ワルシャワ条約機構諸国との間で緩やかな包括的関係を構築し、ロシアの特別扱いは存在しなかった。しかし、1993年秋のロシア政治危機以降、ロシアは国際的な威信の回復を政治課題として掲げるようになり、NATOとの間で特別な関係を構築することを望むようになった。旧ユーゴ問題解決プロセスや、NATO拡大問題等とリンケージされながら、この問題は浮き沈みしつつ進展したが、1996年10月に拡大問題が加速するとNATO・ロシア関係構築プロセスも同期し、1997年5月には常設の政治・軍事協議メカニズム設立という一つの到達点に至った。その後、旧ユーゴ問題処理や南アジア核実験問題への対応といった対外的な面での協力、それにNATO・ロシア間の信頼醸成等の相互問題で成果を積み上げた。99年にコソヴォ危機に直面して関係は凍結されているが、この凍結はあくまでも一時的な状況であろう。このようにNATO・ロシア関係の構築プロセスを見てきた上で、注目すべきは、1993年のロシア政治危機やNATO拡大問題といった、一般にはNATO・ロシアの離間要因と捉えられがちであるが、実際にはその都度NATO・ロシア関係の個別化・高度化・機構化が進展してきたことである。この背景には何を見たらよいのか?

それは、ロシア側からは、NATOとのパートナーシップを通じて大国としての威信を確保することであり、NATO側からは同様にロシアの安定化やロシアの建設的な姿勢を引き出すことである。これらの要因から、ロシアは国内の政治危機への対応の中でNATOとの個別・特別関係を求め、NATO拡大に際してはNATOとの常設協議メカニズムを構築するというプロセスを理解することができるであろう。危機は関係深化への呼び水となっているのである。同じことはNATO側についても言える。また、NATO・ロシア個別関係構築の背景には、NATOの集団安保機能の強化という共通の利益もある。NATOは地域的な安定を保障する上でロシアとの関係構築を欠かすことはできず、ロシアはNATOがロシアに対する集団防衛を担う軍事機構という色彩を薄めることはやぶさかではない。このように、双方の利益が合致するかたちで構築されてきたNATO・ロシア関係は今後とも幸福に深化しうるのだろうか?これまで関係構築の要因として働いてきたモチーフが、今後衝突することはないのだろうか?

集団防衛態勢の堅持という問題と、ロシアの発言権強化の問題については双方の利益は衝突しうる関係にある。NATOは、あくまでも軍事機構として地域的な安全保障を担うためには、集団防衛任務のために構築されている統合軍事機構の能力を維持しなければならず、この点でロシアの利益と合致しない可能性がある。これは、これまでNATO・ロシア関係強化のモチベーションとして働いてきた要因が今後衝突要因となる可能性を示している。また、ロシアが欧州安全保障問題に関するより強い発言権を望むならば、NATOとの衝突を生む可能性がある。これは、ロシアがNATOとの関係構築を通じて望んできた大国としての地位の確保が拒絶される瞬間であり、NATO・ロシア関係が暗転する転機になりかねない。 NATO・ロシア関係は、以上見てきたように、これまでその強化をもたらしてきた要因が、将来的には関係悪化要因にも転じかねない危うさを孕んでいる。他方、NATO・ロシア関係は大きなポテンシャルを有していることも事実である。コソヴォ危機への対応の中では、NATOは明示的な国連安保理による授権なく行動を起こし、欧州に実態として存在しているNATOを中心とした覇権的安保構造を垣間見せた。しかし、これはロシアとの協調がうまく機能しなかったためであり、ひとたびNATO加盟国とロシアの声が調和するならば、国連安保理も機能を回復することから、安保理による授権、そしてNATOとロシアという実施能力の裏打ちの双方を得た地域集団安保構造が実現されうるであろう。

本稿は、NATO・ロシア関係構築過程を時系列的に分析した上で、NATO側資料やNATO各国の一次資料を用い、ロシア人研究者の論文を含む2次資料を加味したものである。著者の在ベルギー日本国大使館でのNATO問題担当専門調査員として勤務した際に得られた知見も活かされている。(了)

目次
一 序論
二 冷戦後NATO・ロシア関係の発展と現況
 (一)起源と発展:NATO拡大のインプリケーション
 (二)協力は現在どのような状況にあるか
三 関係構築の「なぜ」と「これから」
 (一)NATO側の対ロシア政策
 (二)ロシアの対NATO政策
 (三)目標の一致とあり得べき衝突
 (四)ポテンシャル:危機管理レジームへ?
四 結語

印刷用pdfファイルはこちら
(このページを印刷する際にカウンタの画像やヘッダ・フッタなどが邪魔となる場合に)

created on 10 Mar. 2000
last modified: le 22 juin 2000

Back to Index|Back to 国際関係研究お役立ち|Visit my guestbook