マックのあるところないところ、そしてサイダー

 王立公文書館に通っていたある日、火災報知器が鳴り出しました。少し様子をうかがったところ、これは90%誤作動ではないかと思ったので、じっくりとパソコン一式とコピーしてあった資料をどっちゃりかかえて避難しました。待ってる間作業しようと思ってね。外は小雨。イギリスの弥生3月はまだまだ寒いです。サンデー・研究者が多いお国柄、避難してきたのは老人が多い。どうするのかねえ、こんなに寒くて、と思っていると、公文書館側がピクニックに使うような銀色のシートを配り始めました。やれやれ、これでくるまってあったかくなってよかったねえ、おじいちゃんおばあちゃん、と眺めていると。やや!やつらは銀色シートをマントのようにひらひらさせて踊り始めた!!お剃る部志!!!イギリスの老人!!!!

 なお、「サイダーは臭いだー」と書き出したこの号だけど、なんとニフティのMacPower会議室(SASCII-6)にいらしている方に「サイダー」というハンドル・ネームの方がいらして、「ぼくは臭いそうだが(中略)、サイダーはうまかった」というような書き込みをされていた。もちろん、私もサイダーは好きだ。しかもあの臭みが好きなのだ。フランスでもシードル(つまりサイダー)はイギリスに近いブルターニュ地方の名産で、パリでもブルターニュ料理屋では焼き物のごっつい器でシードルを飲ませる。こういった店はクレープも得意であって、シードルの臭みとクレープのそっけなさが心地よい。

 それにひきかえ日本のシードル、クレープは...などということを言い出すつもりは全くないことを断っておく。日本には日本の味があってしかるべきであるし、だいいちそういった自分を一般の日本人から切り離してなんだか偉そうに、半ば差別的な、そのくせ自虐的な文章は嫌いだ。

 文化と文化の間には違いしかない。高みも低みも存在しない。ここらへん、パリでお世話になっている中尾浩さんの専門である、スイスの言語学者、ソシュールの「言語の中には差異しかない」という言葉が連想される。もちろん、こういった議論には私は初心者であって、連想されるだけであるが。。。

 こういった文化相対主義に繋がる態度には、小林よしのり氏とも近しい呉智英氏の「ならばインドの未亡人を焼く習慣を文化として尊重できるのか」という指摘が刺さってくる。一言で言えば尊重すべきである。ただし、この習慣の根拠はおそらく生命の構造に関する知識という文明によって否定される可能性がある。その場合、この習慣はやがて変わって行く。文化は差別化を推し進めるが、文明は普遍化を推し進めるものだからである。

 イダーはくさいだー。そんなことを考えながら、でもロンドンのパンクな髪の毛ピンクな鼻輪娘になんとそんなことを伝えて良いか分からず、伝わったら伝わったで殴られそうなのでもじもじしていると、車掌さんが来た。ロンドンロンドン楽しいロンドンはどこにでも車掌さんがいる。おそるべき人力主義が、あの真っ赤な2階建てバスの中にも、地下鉄の駅にも跳梁跛跨している。特にバスの車掌は客が乗り込むと大昔の機関車のようにひもを引っ張って鳴らす式の鐘をちんちんいわせて運転手に合図する。

 車掌は君だが運転手は僕だっ。きょーおのお客はイギリスの公文書館(Public Record Offce;PRO)に行ってきました。イギリス政府の全ての官庁の公文書が保存、公開されているところね。日本で言えば、って言いたいけど該当する施設は多分日本にはないな。よく考えたらいかにイギリスがオープンであるかを如実に表していると思う。国民に資料をオープンにするためだけに国会図書館クラスの建物があるんだもんなー。日本の国会図書館は大きいけどあれは本や雑誌がメインでしょ?自国の公文書だけであれが埋め尽くされていると考えられ

 さらにこれがすごっかったんですよ、設備。オンラインで文書をオーダーできるのはまだ普通としましょう。しかーし、その文書が届くと入館するときに渡されたポケベルで教えてくれるんですよ。だからその間他の作業をしていても良し、めし食っていてもちゃー飲んでいてもナンパしていても良し。(するかーっ)

 閲覧室はコンピュータ対応。音が篭らないオープンなスペースの中に机が散在していて、各人のスペースに電源が2つずつついている。日本のお金持ちの私立大学でもここまでやっているところはないでしょう。パソコンを広げるとどうしても広い机が必要になるからねえ。欲を言えば、電話線があると最高じゃないかな。それか、すでに全ての文書がスキャンされているとか。

 と思ったら、先だって公開された1964年の分の資料からはCD-ROM版も出ている。なんてこった。ダイジェストなどではなく、本当に十分細かいところまで入っている。残念なのは、ウィンドウズ版しかないこと。しかし館長、もじもじしないでいっちゃうぞ。えいっ。それは結構間違いだ。

 なぜならばPROはイギリスのMacのメッカだからだ。Macのカーバ神殿だ。かくれキリシタン、マリア観音だ。利用者が持ち込んでいるパソコンを眺めていて、なんかMacが多いなーと思ったので、数えてみた。結果を表に示す(表、略)。あちきがここに通っていた火曜から週末を挟んで月曜日まで、毎日お昼に数えた。結果、Mac、東芝、コンパックの順番に多かった。コンパック以下は「その他」にカウントした。

 通算でMacは37%で文句無しトップ。シュペール(super,すっごーい)!Macのシェアがサイダーのアルコール度数くらいの国で、たまたま居合わせたなかの4割近い人がMacを使っている場所があるなんて!機種も「伝説の漬け物石」ポータブルから「赤外線モノリス」PowerBook5000シリーズまで一通り発見できたし。イギリスのMacシェアはサイダーのアルコール度数程度っつーのはくさい。まあ、どうせWindowsマシンはオフィスに死蔵してあるんじゃないかな。少なくともPROでは連日安定してMacはブランデーくらいはあるわけだ。

 次回は、読者の方から意外と多く質問があるネタ、日仏で電子メールコミュニケーション(ミニテル含む)について調べてみようと思います。ご意見、ご要望は電子メールでね。もちろん、日本語オッケーっす。また、イヤミweb(なんかやな名前だ)には原稿のその後のフォローや関連情報が載せてあるのでご利用してくさい。(了)